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東京高等裁判所 平成9年(ネ)2740号 判決 1998年1月26日

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、五〇〇〇万円及びこれに対する平成七年一一月一九日から支払い済みまで年六分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

4  仮執行の宣言

二  被控訴人

主文同旨。

第二  本件事案の概要

一  本件事案の概要は、次のとおり補正、付加するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の第二項記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決五頁一行目の「死亡したときに」を「死亡したことであり、また、その支払時期は」に、同一〇行目の「へりに後ろ向きにした」を「雨水止めのへりに対し後ろ向きの」にそれぞれ訂正し、同六頁一行目末尾の次に改行の上、「このことは、<1>控訴人会社の経営内容は、決して良好であったとはいえないとしても、建材屋等の仕入先に対する支払い及び従業員に対する給与の支払い並びに金融機関等に対する返済を遅滞したことがないことから明らかなとおり、公道が自殺を決意する程差し迫った状況にはなかったこと、<2>保険会社によっては、控訴人の場合には、少なくとも十数億円の付保が必要であると試算していることから、公道が加入した保険契約の保険金額が多額であることを同人の自殺の動機に結びつけることはできないこと、<3>本件事故当日は、公道の次男公俊の長女桃子が退院する予定日であったところ、公道は初孫にあたる桃子を非常に可愛がっていたことから、公道が右当日に自殺することは絶対にあり得ないこと、<4>公道が保険金目的の自殺をする場合には、平成六年度加入分六億円のほか、同七年度加入分七億八〇〇〇万円の保険金を取得し得る日、すなわち一年の自殺免責期間経過後の平成八年七月一日以降の日を選択すると考えるのが合理的であること、<5>公道が転落した五階建建物の屋上には当時四人の作業員が稼働中であったところ、このように他人に目撃される可能性のある状況の下で公道が自殺を決行することはあり得ないこと、<6>右屋上から飛び降りた場合には、途中でベランダに引っかかったり、地上の植え込みがクッションの役割をして死亡の目的を達成できない可能性があることから、公道が右屋上から飛び降り自殺を図ったとは考えられないこと等の事実から首肯することができる。」を付加する。

2  同六頁三行目末尾の次に「けだし、本件災害割増特約の第一条の引用する保険約款『別表2』において引用されている後掲の分類提要(甲二一、乙八)は約一〇〇〇頁に及ぶ分厚い本であるため、その内容は右『別表2』に明記されておらず、またこれが保険者から保険契約者に交付されることはないところからすると、分類提要自体を見ないと判明しないことは、当事者間の契約内容にはなり得ないので、本件保険契約においては分類提要E九八七(不慮か故意か決定されない高所からの墜落)が保険金支払事由から除外される旨の合意は成立していないからである。仮に、右合意が本件保険契約の内容になっているとしても、分類提要E九八七に該当するとされるには、その前提として、『当該損傷が不慮の事故か自殺か、あるいは他殺かが医学又は司法当局の調査によって決定しなかったと記載のある場合』にあることを要するところ(甲二一号証の「不慮か故意かの決定されない損傷」の注参照)、本件事故直後に公道を診断した村井医師作成の死体検案書(甲三)及び死亡証明書(甲二二)並びに本件事故原因の調査に当たった鴻巣警察署の神澤警部補作成の死体見分調書ではいずれも「事故死」と判断されているから、分類提要E九八七に該当するものとする前提を欠いている。また、本件災害割増特約の第一条が被保険者の故意を保険者の免責事由としているのは、商法六八〇条一項一号が被保険者の自殺を保険者の免責事由としているのと同趣旨をいうものである。」を付加する。

第三  争点に対する判断

当裁判所の判断は、次のとおり補正、付加するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の第三項記載の理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決八頁八行目全体を「(争点1について)」に、同九行目の「故意」を「被保険者の故意」に、同九頁二行目の「不慮の事故とは、」を「不慮の事故の意義については約款の別表2において定義されている。これによると、不慮の事故とは、」に、同一一行目の「別表」を「右別表」に、同一〇頁二行目の「に使用される」を「を指す」に、同七行目冒頭から同一一頁三行目末尾までを「(二)そこで、右認定の本件災害死亡保険金の支払事由と免責事由の主張立証責任の所在についてみるに(なお、本件災害割増特約第一条所定の『別表2 対象となる不慮の事故』の文言自体からは分類提要所定の分類番号E八八〇ないし八八七や九八〇ないし九八九の具体的な内容は判明しないところ、被控訴人が本件保険契約の締結に当たり控訴人に対し保険証券とともに分類提要を交付した形跡は窺えない上、分類提要が元来統計処理上の分類の基準を定める目的で作成されたものであることからすると、約款における分類提要の引用は、内容の明らかな事故が「不慮の事故」に該当するか否かの判定に関しては意義を有するとしても、事故内容が不明な場合の主張立証責任の帰属につき、右分類番号九八七等を根拠としてこれを決定することは妥当ではないと解する。)、『被保険者が不慮の事故により死亡したこと』と『事故が被保険者の故意により招来されたこと』とは両立しない事実であるから、問題は、保険金請求者において被保険者が自動車事故や高所からの転落事故により死亡したこと(言い換えれば、疾病や体質以外の要因によって死亡したこと)等の抽象的な事故態様を主張立証すれば足り、保険者において右事故が被保険者の故意又は重過失により発生したことを主張立証すれば免責されると解するか、保険金請求者において不慮の事故、すなわち偶発的な外来の事故であることを具体的に主張立証する必要があり、保険者は右事故の発生につき被保険者に重過失があることを主張立証すれば免責されると解するかである。そして、本件保険契約の主契約及び定期保険特約においては単に『被保険者が死亡したこと』を死亡保険金支払事由とする一方、被保険者の責任開始の日から一年以内の自殺を免責事由としているのに反して、本件保険契約の災害割増特約では『不慮の事故、すなわち偶発的な外来の事故により被保険者が死亡したこと』を保険金支払事由としていること(甲一)からすると、災害割増特約保険金についてはその支払を請求する者において具体的な事故態様により不慮の事故であることを主張立証すべきであると考える方が文理に適うこと、立証の難易の観点からみても、通常保険者自身の経済活動外の出来事である被保険者の故意(自殺)を保険者に立証させるよりも、通常被保険者と密接な人的関係にある生命保険金の受取人に『不慮の事故であること、すなわち自殺ではないこと』を立証させる方が妥当であること並びに右災害割増特約においてはいわゆるモラルリスクの防止を重視すべきであること等を考慮すると、右後者の見解を採用すべきである。なお、本件保険契約の主契約についてはともかく、その災害割増特約について右見解を採用したからといって、商法六八〇条一項の規定の趣旨に反するものではない。」にそれぞれ訂正する。

2  同一一頁五行目から六行目にかけての「乙第三号証、」の次に「第四号証、」を付加し、同六行目の「(但し、」から同行から同七行目にかけての「弁論の全趣旨)」までを「、同梯公行)及び弁論の全趣旨」に訂正する。

3  同一三頁二行目の「現場の写真を何枚か撮った」を「公行が現場の写真を何枚か撮るのを手伝った」に、同一四頁四行目の「調査嘱託、弁論の全趣旨)」を「原審の平成八年六月三日付調査嘱託に対する回答書)及び弁論の全趣旨」に、同一六頁六行目の「右両手」を「両手」にそれぞれ訂正する。

4  同二三頁三行目の「あるほか」の次に「(例えば、姿勢A以外にも、本件事故現場において後ろ向きの姿勢で転落する事故態様としては姿勢Aの左右六十度までの変化があり得る。乙第三二号証参照)」を、同九行目の「着地状況をもとに」の次に「姿勢Bの状態で転落後、」をそれぞれ付加し、同二四頁二行目の「明らかであり、」から同四行目末尾までを「明らかであるから、右離脱角度が九〇度の場合は本件事故態様の一想定例として科学的な合理性を有する面があることは否定できないが、それ以上に公道が右前提条件のもとに墜落したとまでは認定することはできない。」に、同一一行目の「同柴山、弁論の全趣旨)」を「同柴山)及び弁論の全趣旨」にそれぞれ訂正する。

5  同二八頁九行目の「ないし」を「又は」に、同二九頁七行目の「保険金額六億円」を「本件保険を含めて保険金額九億五〇〇〇万円」に、同一〇行目の「一五億三五〇〇万円」を「一一億八五〇〇万円」にそれぞれ訂正する。

6  同三一頁二行目の「疑問があり、」を「疑問があるほか、本件事故当時の控訴人会社の業績は良好であったとは決していえないが、従業員に対する給与等の支払いが遅滞していた訳ではないし、また株式会社東京三菱銀行等の融資先に対する毎月の割賦弁済も履行しており、さらに右銀行に対する借入金支払債務の担保に供されているとはいえ、簿価一億余りのNTT等の株式を保有し、公道自身も右当時右銀行に一四〇〇万円余りの預金債権を有していたこと(甲二三、二四の1、2、二五ないし二八、乙三、四、弁論の全趣旨)等を考慮すると、」に訂正し、同一〇行目の「結局」から同一一行目の「したがって、」までを削除する。

第四  結論

以上によれば、控訴人の本訴請求は理由がなく棄却すべきである。

よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、主文のとおり判決する。

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